岡山県産鉱物 川上郡備中町布賀鉱山ロケーション

布賀の露頭は高梁から成羽川沿いにさかのぼり、備中町黒鳥から布賀部落に通ずる急な山道を登りつめたところの道路沿いやその周辺に分布する。
近くには、現在は再開発を進めている石灰石採石鉱山(備北粉化工業)がある。右側の画像は布賀鉱山を成羽川対岸より撮影したもの。
産出鉱物図鑑 産出鉱物リスト
布賀のスカルンについて。
 高梁市備中町布賀には高温型スカルンといわれ、我が国はもとより世界的にも極めてまれなスカルンが産出する。
スカルンとは鉱床スカルンともいい、鉱石鉱物を伴い、スカルン鉱物としては柘榴石や灰鉄輝石、珪灰石などを主とし、花こう岩の固結温度の500度前後で生成されたものと考えられている。高温型スカルンは、少なくとも800度前後、あるいはそれ以上の温度で生成されたと考えられ、ほとんど鉱石鉱物を伴わず、ゲーレン石、スパー石を主とし、種々の珍しい鉱物を産出する。
 我が国の高温型スカルンの発見は、昭和44年、当時岡山大学の逸見吉之助教授によって、広島県東城町久代地域で初めてゲーレン石の産出が知られ引き続きスパー石、ティレ一石なども発見され学会に報告された。昭和46年には岡山県の備中町布賀で、さらに大規模なものが発見され、逸見教授を中心に岡山大学で研究が続けられ、日本新産の鉱物をはじめ、布賀石、備中石、逸見石、などの世界新産鉱物も報告され、一躍脚光を浴び、世界有数の産地の一つとなった。現在は、草地 功岡山大学名誉教授、小林祥一岡山理科大学教授らが中心となり研究が進められ、近年では、草地鉱、大江石、武田石、パラシベリア石、岡山石、森本柘榴石、単斜トバモライト、沼野石、島崎石などの世界新産鉱物及び、インヨー石、ザレシ石、ジャクスディートリッヒ石、カルシボラ石、ロウ石などの日本新産鉱物が数多く報告されている。
 布賀のスカルンは、ほぼ純粋に近い石灰岩を原岩とし、これに花こう岩に似た石英モンゾニ岩が岩脈状に多数貫入し、岩脈の両側に数mから20mの幅をもつスカルン帯を形成している。スカルン帯では、モンゾニ岩を中心に両側に汚染岩帯、ゲーレン石帯、スパー石帯、結晶質石灰岩の順に、ほぼ平行な帯状配列が見られる。汚染岩というのは、火成岩とスカルンの間に存在する輝石、長石を主とする不均質な岩石で、高温型スカルンの特徴の一つでもある。帯状構造は、マグマの貫入により高温になる段階で、マグマから石灰岩の方に供給される物質の種類と程度によって形成され、最も遠くまで多量に移動したのがケイ素で、これによってスパー石ができ、次にアルミニウム、鉄、マグネシウムなどによってゲーレン石ができたと考えられている。このようなスカルンの生成条件は、関連する鉱物の安定領域に関する実験結果と、実際の鉱物共生から推察されるわけで、例えば、全体にかかる圧力が1キロバール(深さにして約3キロメートル)水と炭酸分圧が等しいと仮定すると、ゲーレン石は約800度、スパー石は約1000度で生成されたと考えられる。
 布賀では、再度、スカルン生成後に貫入した別の岩脈による再変成作用で、ランキン石やキルコアン石、灰チタン石及び、森本柘榴石などが生成し、また温度降下時における後退作用で、ゲーレン石からはベスブ石、加水ぎくろ石、備中石が、スパー石からはティレ一石、スコート石、布賀石などが生成しており、さらにモンゾニ岩を中心に熱水の貫入による作用で逸見石、岡山石、五水灰硼石、ニフォントフ石、オルシャンスキー石、武田石、島崎石などが生成している。備中石、布賀石は世界で初めて発見された新鉱物で備中町布賀の地名をとってそれぞれ Bicchulite(ビッチュウライト)、Fukalite(フカライト)と名付けられたものである。このほかにもたくさんの本邦(世界)新産、あるいは希産の鉱物が知られている。
このように、珍しい鉱物や学問的にも貴重な鉱物を多く産出するが、残念なことに、これらの鉱物は数種を除いては非常に産出量が少ない上、肉眼鑑定が困難なものが多く、ほとんど]線か顕微鏡観察によらなければ分からない場合が多いが、このような産地は我が国では久代、布賀のほかには大規模なものはなく、井原市の三原鉱山、岩手県の江差鉱山、埼玉県の秩父鉱山にわずかに知られるのみであり、世界的にみても数箇所しかない貴重なものである。

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